からくり仕掛けの娘
昔々のお話です。ある所に大変腕の良い時計職人がおりました。男は娘と二人で店を営んでおりましたが、大変貧乏でお客は全くありませんでした。
「いつも苦労をかけてすまない。いつかお金持ちになったらお前にうんと贅沢をさせてやろう」
「いいえ父さん、私は今のままで幸せです。ずっとこうして暮らせれば良いの」
そんな或る日街一番のお屋敷の旦那様が見た事も無いほどすばらしい時計を持って来た者にありったけの褒美を与えるというお触れを出しました。こんな機会は二度とありません。父親は時計作りに没頭しました。しかし悩んでいる間に他の職人たちは次々と豪奢な時計をお屋敷へ運んでゆきます。父親はとうとう頭を抱えてしまいました。見かねた娘が父親に言います。
「父さん私を使って時計を作ってくださいな。朝昼晩ときっかりに見事な声で歌ってみせましょう。そうすればきっと街一番の時計になるわ」
と言いました。父親は泣く泣くそのとおりにしました。すると見事娘の時計が選ばれ、父親は褒美と名声を頂きました。しかし娘を心配した父親は、夜中になるとそっとお屋敷に忍び込み佇む娘の時計に問いかけます。
「おまえ、おまえ、腹が減ってはいやしないかい?」
「ああ父さん、私お腹が減って今にも倒れそうよ!何でも良いから食べるものをくださいな」
それを聞くと父親はパンを与えてやりました。次の日も夜中に屋敷を訪れると娘の時計はこう口を開きます。
「ああ父さん、私お腹が減って今にも倒れそう!何でも良いから食べるものをちょうだい」
父親はにわとりを与えてやりました。次の日も次の日も父親は屋敷に通い続けました。或る日の事でございました、いつものように夜中に屋敷へ行くと家の周りに人が集まっています。聞けば末のお嬢さんがいなくなったとの事。一緒になって探しましたがとうとう見つかりませんでした。それからお屋敷では一人消え、二人消え、とうとうみんないなくなってしまいました。がらんどうのお屋敷を父親が夜中に再び訪れると、娘の時計が叫びました。
「ああ父さん、父さん!私お腹が減ってどうにかなってしまいそう!おねがいだから何か食べるものをちょうだい!」
それを聞くと父親は時計の中に飛び込みました。すると時計は内側からバラバラになり、すっかり無くなってしまったという事です。